【はじめに】適応障害からの復職——Aさんの8ヶ月の記録

「上司との関係がつらくて、毎朝吐き気がする」「会社の駐車場に着いても、車から降りられない」——適応障害で休職に至る方の多くが、こうした経験をしています。

この記事では、適応障害で6ヶ月間休職し、リワークプログラムを経て復職に成功したAさん(30代・男性・IT企業勤務)のケーススタディを、時系列に沿って詳しくご紹介します。

この記事はリワーク完全ガイドの関連記事です。リワークの全体像を知りたい方は、まずガイド記事をご覧ください。

※ プライバシー保護のため、個人を特定できる情報は変更しています。実際の支援事例をもとに構成しています。

休職に至るまで:限界を超えた3ヶ月

きっかけは部署異動

AさんはIT企業でシステムエンジニアとして7年間勤務していました。技術力には定評があり、チーム内でも中心的な存在でした。しかし、会社の組織再編に伴い、新設されたプロジェクト管理部門に異動になったことが転機となります。

新しい部署では、これまでの技術職とは全く異なるマネジメント業務が求められました。さらに、新しい上司は「結果がすべて」という方針で、進捗報告のたびに厳しい叱責を受けるようになりました。

心身に現れた変化

異動から1ヶ月後、Aさんの心身に以下のような変化が現れ始めました。

時期 症状
異動1ヶ月目 日曜夜の強い不安感、寝つきの悪さ
異動2ヶ月目 朝の吐き気、通勤電車での動悸、食欲低下
異動3ヶ月目 出社できない日が増加、涙が止まらない、「消えたい」という思い

妻の勧めで心療内科を受診したところ、適応障害と診断されました。医師からは「今の環境では回復が難しい。まずは休養が必要です」と告げられ、6ヶ月の休職に入りました。

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休職期間:何もできない日々からの脱出

最初の2ヶ月:「何もしない」ことの辛さ

休職直後のAさんは、一日中布団の中で過ごす日が続きました。「休んでいるのに、何も良くならない」「自分は社会人として終わったのではないか」——そんな思いが頭の中をぐるぐると回り続けました。

主治医からは「今は休むことが仕事です。焦らないでください」と言われましたが、何もしていない自分を許すことが、最も難しいことでした。

転機:リワークプログラムとの出会い

休職3ヶ月目、主治医から「そろそろリワークプログラムを検討してみませんか」と提案されました。最初は「まだ早いのでは」と躊躇しましたが、「見学だけでも」と思い、就労移行支援事業所を訪れました。

見学で印象的だったのは、自分と同じような経験をしている人たちが、前向きに取り組んでいる姿でした。「ここなら、自分も変われるかもしれない」——そう感じ、リワークプログラムへの参加を決めました。

リワークプログラム:4ヶ月間の取り組み

1ヶ月目:生活リズムの立て直し

週3日、午前中のみの通所からスタート。最初の目標は「決まった時間に起きて、事業所に行く」というシンプルなものでした。プログラムの内容は軽めの作業とリラクゼーション。「こんな簡単なことでいいのか」と思いましたが、スタッフから「まずは土台を作ることが大切です」と説明を受け、焦る気持ちを抑えました。

2ヶ月目:認知行動療法で「思考の癖」に気づく

通所を週5日に増やし、認知行動療法(CBT)のプログラムに参加。ここでAさんは、自分が「すべてを完璧にこなさなければならない」「人に頼ることは弱さだ」という思考パターンに囚われていたことに気づきます。

Aさんの気づき:「上司に叱責されたとき、『自分がダメだから』と100%自分のせいにしていた。でもCBTで学んだ『証拠を検証する』方法を使うと、実際には上司の指示が曖昧だったり、そもそも無理なスケジュールだったりしたことがわかった」

3ヶ月目:グループワークで対人スキルを磨く

グループワークやSST(ソーシャルスキルトレーニング)に積極的に参加。特に「アサーション(適切な自己主張)」のトレーニングが転機になりました。「無理な依頼を断る」「自分の状況を伝える」といった練習を繰り返す中で、「断ることは相手を否定することではない」と実感できるようになりました。

4ヶ月目:復職に向けた実践トレーニング

フルタイム相当の通所を行い、職場を想定した負荷の高い課題に取り組みました。通勤訓練として、実際の通勤ルートで事業所に通う練習も行いました。また、復職後の「再発防止プラン」を作成。自分のストレスサイン、対処法、SOSの出し方を具体的に文書化しました。

復職とその後:新しい働き方の実践

復職時の調整

復職にあたっては、リワーク支援機関のスタッフが会社の人事部と面談を行い、以下の調整を実施しました。

配属先 元の技術部門に復帰(マネジメント部門ではなく)
勤務時間 最初の1ヶ月は時短勤務(6時間)→ 段階的にフルタイムへ
業務内容 個人作業中心の開発業務からスタート
フォロー体制 月1回の産業医面談 + リワーク支援機関の定着支援(月2回)

復職後の変化

復職から1年が経過した現在、Aさんは安定して勤務を続けています。以前との最大の違いは、「自分の限界を知り、適切に対処できるようになった」ことだと言います。

残業は週10時間以内に制限し、定時退社を基本にしている

無理な依頼には「今の業務量では対応が難しい」と伝えられるようになった

週末は趣味のプログラミングを楽しみ、オンオフの切り替えができている

Aさんの体験から学ぶ3つのポイント

1. 「休むこと」を自分に許す

休職は「逃げ」ではなく、回復のための前向きな選択です。Aさんも最初は自分を責めていましたが、休養があったからこそ、リワークに取り組む体力と気力を取り戻すことができました。

2. 専門家の力を借りる

一人で回復しようとするのではなく、主治医、リワーク支援機関、産業医など、専門家のサポートを積極的に活用することが、安定した復職への近道です。

3. 復職後の「働き方」を変える

以前と同じ働き方に戻るのではなく、自分の限界を理解した上で、持続可能な働き方を実践することが、再発防止の鍵です。

まとめ:適応障害からの復職は、十分に可能

Aさんの体験は、適応障害で休職しても、適切な支援を受けながら段階的に準備を進めれば、安定した復職が十分に可能であることを示しています。

もし今、適応障害で休職中の方、または休職を検討している方がいらっしゃれば、一人で抱え込まず、まずは専門家に相談してみてください。

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